奈良漬の周りについている茶色の物体を、『酒粕(さけかす)』といいます。
奈良漬にはなぜ酒粕がついているのか、疑問に思われたことはございませんか。どうせ捨てるのだから、最初から取り除いてほしいと思いませんか。
正直申し上げますと、奈良漬屋としても酒粕をつけて販売したくはありません。手間が増えるし、商品が重くなることでお客様が敬遠して購入されないかもしれない。じゃあなぜ酒粕をつけて販売してるのかといいますと、とても重要な役割があるからつけています。
奈良漬が常温で販売できている理由はご存知でしょうか。奈良漬屋で売っている常温の奈良漬と、スーパーなどで売っている要冷蔵の奈良漬との違いを考えてみてください。
見た目で判断してみると、奈良漬屋の奈良漬は酒粕がついている、スーパーの奈良漬は酒粕がついていないという違いがわかります。
奈良漬が常温で販売できるかどうかは、大まかにいうと、酒粕がついているかどうかで決まります。もちろん奈良漬の熟成度合いによっても変わりますが、基本は酒粕のあるなしです。
酒粕には5%以上のアルコール度数があり、それ自体が天然の防腐剤の役割をしています。さらに奈良漬は酒粕に包まれている間、絶えず乳酸発酵で熟成を続けます。
この乳酸発酵は乳酸を生み出し、乳酸は奈良漬のpH(ピーエイチ、ペーハー)を下げます。pHが下がると酸性が強くなり、微生物が増殖しにくくなります。このように酒粕の乳酸発酵でpHを下げることは、奈良漬の品質保持に重要な役割を果たし、奈良漬の常温販売を可能としています。
さて、酒粕の豊富な栄養については、皆さんよくご存じだと思います。インターネットで検索すると、さまざまなサイトで酒粕の効能をお伝えしています。従って、ここでは奈良漬の作り方についてお伝えしたいと思います。
奈良漬の塩分は、意外と少ないことはご存知ですか。漬物は塩分が高いと思われている方が多いと思います。ではなぜ奈良漬の塩分は意外と少ないのかをお伝えしていきます。
奈良漬の作り方ですが、最初に奈良漬用の野菜を洗浄した後に塩漬けにします。これは塩の脱水作用を利用して、野菜の水分量を低くするためです。
腐敗細菌を含む微生物の多くは、塩分濃度が20%を超えると増殖できなくなります。これは、微生物は食品中の水分で増殖しますが、塩分濃度を高くすることで脱水作用が働き、食品から水分を抜くことができるので、結果的に微生物が増殖できなくなるのです。
この食品中の水分量が少ないことを、専門用語で「水分活性(すいぶんかっせい)が低い」といいます。
奈良漬の作り方の2工程目は、奈良漬の塩抜きです。清酒で、塩漬け野菜の表面に付いた塩分を洗い流します。水ではなく清酒で洗うのは、殺菌のためと、せっかく水分を抜いた野菜の水分量を増やさないためです。
野菜の清酒を拭き取った後、酒粕に漬けて野菜内部の塩抜きをします。塩抜きは、仕上げ後の酒粕(別の奈良漬を仕上げた樽の酒粕)を使用します。
この仕上げ後の酒粕は、新酒粕(一度も使用していない酒粕)よりも乳酸発酵が進んでいるので乳酸菌が豊富に存在しています。酒粕内の豊富な乳酸菌で埋め尽くすことで、塩抜き後の野菜に別の微生物が発生できないようにします。
塩抜きは、野菜と酒粕との浸透圧の差を利用して行います。浸透圧の作用で、酒粕には野菜の塩分が移動します。そして野菜には酒粕の栄養素が移動します。この浸透圧の差を利用した置き換わりで、塩分が高くなった酒粕は役目を終えるので処分します。
奈良漬の作り方の3工程目は、奈良漬の漬け替えです。漬け替えとは、酒粕を取り替えて奈良漬を熟成させる作業のことです。
先ほどの塩抜きは仕上げ後の酒粕を使用しましたが、今回の漬け替えは、仕上げ後の酒粕と、新酒粕と、味醂粕(みりんかす)を混ぜ合わせて独自のブレンドを使用します。
奈良漬の熟成具合を見ながら、さらに漬け替えを続けます。漬け替えの回数に合わせて、徐々に新酒粕と味醂粕の割合を増やすブレンドで漬け替えて熟成させます。
当店は酒粕にもこだわっており、それぞれ別の酒造から取り寄せた3種類のタイプが異なる酒粕を組み合わせています。酒造が違えば酒粕も異なり、柔らかさ、アルコール度数、香り、濃厚さ、全てにおいて別物です。酒粕のその日の状態により、一層深みが増す配合にてブレンドしております。
最後の工程は、新酒粕で仕上げ漬け(砂糖で甘味を加える)をします。この頃には、奈良漬の色はべっこう色と黒色の中間になり、当店が理想とする奈良漬に仕上がります。
漬け替えを繰り返したことによって、奈良漬の塩分濃度は少なくなり、その代わりに栄養と旨味がたっぷりと入った熟成奈良漬ができあがります。
準備するもの
一番おいしい奈良漬の食べ方は、奈良漬についている酒粕を水洗いしないことです。水で洗わないので、風味豊かな奈良漬を味わえます。
奈良漬の表面に薄く酒粕がついている状態(奈良漬が酒粕をとおして見えるぐらい薄く)がベストです。味のバランスが崩れますので、酒粕はつけすぎないことをお勧めします。
そして、奈良漬の保存にも酒粕を使用します。保存に酒粕を利用することで、腐敗細菌を含む微生物の増殖を防ぎ、奈良漬のおいしさが長持ちします。
おいしい奈良漬の食べ方の手順です。
商品の包装を開けて、ビニール袋に包まれた奈良漬を取り出します。
まな板の上で奈良漬の袋を開封します。ビニールシートの上に酒粕に包まれた奈良漬がある状態です。
まな板にビニールシートをひいたまま、酒粕を奈良漬から取り除きます。ゴムヘラなどを使用して、奈良漬からビニールの端に寄せていきます。
ひっくり返して、奈良漬の裏側も酒粕を取り除きます。大まかに取り除いたら、その酒粕は保存に使うので捨てません。
奈良漬を切るよりも、先に保存の準備をすると作業効率が良くなります。
タッパーなどの蓋ができる保存容器の底に、ゴムヘラなどを使用して、酒粕を敷き詰めていきます。でこぼこしていても、隙間が空いていても気にしないで大丈夫です。
奈良漬をより熟成させたい方は、最後に酒粕を奈良漬に被せますので、酒粕を半分ぐらい残しておいてください。これ以上の熟成が不要な方は、酒粕は全て底に敷いてください。
保存の準備ができたら、奈良漬を切ります。まな板にビニールをひいたまま、その上で切ると、まな板の汚れが少なくなり便利です。
奈良漬の切り方は自由です。歯ごたえが良い奈良漬(瓜、守口大根、生姜、ごぼう、にんじん)は、最初は薄めに切ってお試しください。
奈良漬のおいしさが長持ちする保存方法の手順です。
切った奈良漬の内、保存する分だけを保存容器に入れます。
奈良漬をより熟成させたい方は、取っておいた酒粕を奈良漬の上に被せてください。
これ以上の熟成が不要な方は、酒粕を被せる必要はありません。
保存容器に蓋をして、冷蔵庫で保存する。
お召し上がりの際は、奈良漬についている酒粕を軽くとってから食卓にお出しください。